甲府地方裁判所 昭和62年(わ)366号 判決 1991年3月25日
本店所在地
山梨県南巨摩郡身延町角打六一七番地
山梨水晶合名会社
(右代表者代表社員 遠藤年宥)
本籍
山梨県南巨摩郡身延町角打六一七番地
住居
右同
会社役員
遠藤年宥
昭和一五年四月一五日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官大森淳出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人山梨水晶合名会社を罰金一〇〇〇万円に、
被告人遠藤年宥を懲役一年に
それぞれ処する。
被告人遠藤年宥に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人らの連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人山梨水晶合名会社は、山梨県南巨摩郡身延町角打六一七番地に本店を置き、印判・土産品等の販売を目的とする合名会社であり、被告人遠藤年宥は同社の代表社員として同社の業務全般を統括していたものであるが、被告人遠藤は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するとともに、架空仕入れを計上して、自己の株式取得資金に充てる等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二七八三万一三六五円あつたにもかかわらず、昭和五八年二月二八日、山梨県南巨摩郡鰍沢町一五〇二番地の一所在の所轄鰍沢税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九〇三万一九〇一円で、これに対する法人税額が二八〇万七八〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、同社の右事業年度における正規の法人税額一〇七〇万三八〇〇円と右申告税額との差額七八九万六〇〇〇円を免れ、
第二 昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三三二八万三八七六円あつたのにもかかわらず、昭和五九年二月二八日、前記鰍沢税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一〇六三万五五二七円で、これに対する法人税額が三四七万六五〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、同社の右事業年度における正規の法人税額一二九八万八七〇〇円と右申告税額との差額九五一万二二〇〇円を免れ、
第三 昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五九二八万七九八六円あつたのにもかかわらず、昭和六〇年二月二八日、前記鰍沢税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八四六万一〇五七円で、これに対する法人税額が二六五万四三〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、同社の右事業年度における正規の法人税額二四六六万二〇〇〇円と右申告税額との差額二二〇〇万七七〇〇円を免れた
ものである。
(証拠の標目)
判示全部の事実について
一 被告人遠藤の当公判廷における供述
一 証人遠藤隆久、同遠藤恵子、同佐藤光一の当公判廷における供述
一 被告人遠藤の検察官に対する昭和六一年九月一一日付、昭和六二年一〇月一四日付各供述調書
一 遠藤隆久の検察官に対する昭和六二年九月二一日付供述調書
一 佐野美津子、佐野ます子(二通)、名取秀子、三上欣治(二通)の検察官に対する各供述調書
一 被告人遠藤の大蔵事務官に対する昭和六〇年六月一三日付、同月一四日付、同年七月二二日付、同年八月二日付、同年九月七日付、同月二〇日付、同年一〇月九日付、同月二五日付、同年一一月二日付、同月二〇日付各質問てん末書
一 大中繁信、中島一夫、坂井宏の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 三上欣治の大蔵事務官に対する質問てん末書の抄本
一 大蔵事務官野中浩作成の昭和六〇年六月一三日付検査てん末書
一 遠藤隆久作成の「印判等の取引状況について」と題する書面
一 大蔵事務官佐藤光一作成の査察官報告書、売上高調査書、仕入高調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、寄附金の損金不算入額調査書、現金預金調査書、受取手形調査書、売掛金調査書、代表者勘定調査書、未納事業税調査書
一 大蔵事務官田頭良一作成の法人税額等調査書
一 登記官作成のインディアアイボリーの登記簿謄本
一 検察事務官作成の資料入手報告書
一 原田隆実作成の取引内容照会に対する回答書
一 大熊治雄作成の取引内容照会に対する回答書
一 小沢礼三作成の証明書二通
一 検察事務官作成の資料作成報告書
一 大蔵事務官小宮山健三作成の昭和六〇年六月一三日付検査てん末書
一 大蔵事務官横田広司作成の検査てん末書
一 浜野秀昭作成の取引内容照会に対する回答書
判示冒頭の事実について
一 登記官作成の被告会社の登記簿謄本
判示第一、第二の事実について
一 大蔵事務官小宮山健三作成の昭和六〇年六月一四日付検査てん末書
一 押収してある仕切書綴二綴(昭和六三年押第二九号の一八の一、二)、納品書綴一綴(同号の一八の三)
判示第一、第三の事実について
一 被告人遠藤の検察官に対する昭和六二年一〇月二七日付供述調書
判示第一の事実について
一 証人鈴木文明の当公判廷における供述
一 押収してある昭和五七年事業年度分確定申告書(昭和六三年押第二九号の一)、入金伝票綴一二冊(同号の五の一ないし五の六、六の一ないし六の六)、メモ五枚(同号の一四の一ないし一四の三、一四の八、一五の一)、伝票二枚に棚卸表三枚が添付されたもの(同号の一四の四)、棚卸表二綴(同号の一四の五、七)棚卸表一枚(同号の一四の六)、印鑑申込書用紙綴一綴(同号の一四の九)、帳簿一冊(同号の一四の一〇)、メモ一綴(同号の一五の二)、帳簿写し一冊(同号の一五の三)
判示第二、第三の事実のついて
一 被告人遠藤の検察官に対する昭和六二年九月一七日付、同年一〇月二一日付各供述調書
一 被告人遠藤の大蔵事務官に対する昭和六〇年八月二八日付質問てん末書
一 中原正次(三通)、中原捷子の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官藤井正信作成の検査てん末書
一 大蔵事務官福泉光国作成の検査てん末書
一 木村和由作成の取引内容照会に対する回答書
一 佐藤光一作成の謄本と題する書面
一 大蔵事務官佐藤光一作成の福利厚生費調査書、事業税認定損調査書、交際費損金不算入調査書、交際費損金不算入額調査書
一 押収してある物品受領書綴一綴(昭和六三年押第二九号の一九)、普通預金通帳三冊(同号の三〇、三二、三三)
判示第二の事実について
一 被告人遠藤の検察官に対する昭和六二年九月二九日付、同年一〇月一九日付各供述調書
一 荻野正作成の取引内容照会に対する回答書
一 押収してある昭和五八年事業年度分確定申告書(昭和六三年押第二九号の二)、入金伝票綴一二冊(同号の七の一ないし一二)、たばこ営業簿一冊(同号の八の一)、メモ一綴(同号の一三の二)、メモ一枚(同号の一三の三)、全日印棚卸表写し一綴(同号の一五の五)、納品書綴三綴(同号の一六の一ないし三)、仕切書綴一綴(同号の一六の四)、代金取立手帳一冊(同号の三一)
判示第三の事実について
一 被告人遠藤の検察官に対する昭和六二年一〇月五日付、同月一二日付各供述調書
一 大蔵事務官掛川安雄作成の検査てん末書
一 小野昭英作成の申述書
一 検察官作成の報告書、捜査照会書の謄本
一 久松威彦作成の照会に対する回答書
一 大蔵事務官佐藤光一作成の消耗品費調査書
一 押収してある昭和五九年事業年度分確定申告書(昭和六三年押第二九号の三)、レジペーパー添付のノート(同号の四)、たばこ営業簿一冊(同号の八の二)、金銭出納簿二冊(同号の九、一〇)、メモ三〇枚(同号の一一の一ないし七、一二の一ないし一一)、帳簿写し一綴(同号の一三の一)、メモ一綴(同号の一五の七)、納品書綴四綴(同号の一七の一ないし四)、総勘定元帳七冊(同号の二一ないし二九)、総合口座通帳一冊(同号の三四)、印材仕入帳一冊(同号の三五)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、次のような主張をするので、逐次これについて判断する。
一 モハメッド・エル又はインディア・アイボリーとの取引については、代金支払方法、返品の仕方、消費方法、商品所有権の帰属について明らかに掛売とは異なるものがあり、委託販売によるものであつて売掛ではなく、その直接の担当者である遠藤隆久は、これに基づき商品引渡の段階で利益発生とは見ず、現金受領時に利益が生ずると考える現金主義によつていたものであり、被告人はこれを基に申告を行つたものであつて、逋脱の意思に基づいて売上除外を行つていたものではないとの主張について
前掲証拠によれば、被告人遠藤は、被告人会社の代表社員として、形式的にも実質的にも同会社の業務及び経営全般を統括していたこと、同会社の法人税の申告は税理士に依頼してなされていたこと、モハメッド・エル又はインディア・アイボリーとの取引については、被告人遠藤の実弟である遠藤隆久がモハメッド・エルと交友関係があつたことから、モハメッド・エルに印材等の販売をさせてみようということになり、遠藤隆久が責任をもつて取引をすることになつたこと、モハメッド・エルが印度人であり、度々帰国することもあつて、あまり信用もできなかつたことから現金売を原則としていたこと、商品は業者から直接モハメッド・エルに送付されることもあつたこと、被告人会社とモハメッド・エルとの間には委託販売契約書というようなものは存在しないこと、遠藤隆久が仕入値に五パーセント位を上乗せした金額を仕切値として納品書を作成して送付し、モハメッド・エルはこれ以上の価格で販売することにより利益を得ていたこと、上限価額はモハメッド・エルの才覚によつていたこと、販売手数料の取決めはなかつたこと、販売実績については定期的な報告はないこと、モハメッド・エルが帰国する際には商品の返品が認められていたこと、この場合も仕切値で計上されたこと、当初モハメッド・エルからは代金として現金が遠藤隆久に渡されていたが、やがて代金として約束手形や小切手を遠藤隆久に渡すようになり、遠藤隆久がこれらを決済し、代金回収をしたものも存すること、そのために木下和枝名義の預金口座を開設し、遠藤隆久が管理していたこと、昭和五九年一二月末日の棚卸にはモハメッド・エルに渡してある売れ残り商品を在庫として計上していないこと、これは被告人遠藤の問合わせに対して遠藤隆久が在庫はないといつたために計上しなかつたことなどの各事実が認められる。
通常委託販売というためには、委託販売契約の存在、最低販売価格等の決定、貸倒負担方法、販売手数料の定め、定期的な売上報告、商品管理、委託者の棚卸計上などがあることが必要とされるが、被告人会社の経営規模等を考慮してこの要件を大巾に割引いたとしても、最低限、委託者の棚卸計上と販売手数料の定め、定期的な売上報告は必要であると考えるべきであるのに、右認定事実による被告人会社とモハメッド・エルとの取引にはこれが存在しないこと及び仕切値を基準として会計処理がなされていることを見れば、両者の取引きは委託販売と認められるものではない。また、被告人会社とモハメッド・エルとの取引がなされているのに棚卸もなく、現金の入金処理もないことは、現金主義云々という被告人会社の主張は、単に弁解のためのものと認められるので、採用することはできない。
この点の主張は採用できない。
二 煙草営業は名義上も計算上も被告人遠藤のものであつて、被告人会社の計算に含まれるものではないとの主張について
前掲証拠によれば、煙草販売の営業許可が被告人遠藤名義であること、被告人会社の目的中には土産品販売が存すること、煙草は土産品とともに被告人会社の従業員により販売され、販売代金も同一のレジスターに入れられて、他の土産品販売代金とは区別出来ない状態であること、煙草は、他の土産品販売や印材販売などの被告人会社の営業拡大のためにも謝礼などとして使用していること、取引実態として、煙草だけ区別しているとは認められないことなどの事実が認められる。
被告人遠藤、証人遠藤恵子は、煙草の仕入代金は被告人遠藤個人の金庫から支出している旨述べるが、そうとするならば被告人会社のために使用した煙草の処理及び人件費等の処理が明確ではなく、厳密に個人分として区別していたものとは到底認められず、この供述は信用することは出来ない。
右認定の事実によれば、煙草販売は実質的には被告人会社に属するものと認められ、この点の主張も採用できない。
三 鈴木文明からの昭和五七年一二月末日の仕入は架空のものではないとの主張について
被告人遠藤及び証人鈴木文明は、当公判廷において架空でない旨供述しているが、被告人遠藤は査察の際もともと架空であることを認めていたばかりか、証人鈴木文明の供述は、同人はそのころ債権者に追われていて逃げかくれしていたもので、また、被告人遠藤に白紙の領収書を渡したりしていたというのであり、そのような同人が、右の仕入の数字は自分の帳簿と被告人遠藤とで確認し合つてそれまでの取引をまとめた旨供述しているのであるが、何故自ら領収書をきらないのか合理的な説明がないなどあいまいな供述で到底措信できない。
この点の主張も採用出来ない。
四 昭和五九年一二月期の土産品売上申告のレシートの除外については、被告人遠藤が関与したものではなく、同人の妻遠藤恵子の独自の判断によりなされたものであるから、被告人遠藤はこれについて刑事責任を負うことはないとの主張について
証人遠藤恵子は、当公判廷において右主張に添う供述をするが、他方前掲証拠によれば、被告人遠藤の妻である遠藤恵子が被告人会社の業務全体を実質的にも統括していた被告人遠藤の言を受けてこの行為をしたことが認められ、それが同人の独自のものであつて、被告人遠藤がこれを分からなかつたという弁解は到底採用することはできない。
この点の主張も採用しない。
五 昭和五九年一二月期の売上金については、従業員が帳簿に誤記してことを見落して過少申告したものであつて、被告人遠藤に逋脱の意思はなく、その差額についてのみ刑事責任を負うべきものであるとの主張について
前掲証拠によれば、誤記があつたことは認められるものの、当時、被告人遠藤において関心を持つていた事実であるし、右差額が三七〇万円余りであるのに対し、昭和五九年度の申告額が八四六万円余りであることなどから、右の誤記が看過されるようなものであつたとは考えられず、被告人遠藤において当然この金額についての認識があつて大蔵事務官に対する質問てん末書においてはこの旨を答えているものと認められる。
右事実によれば、これが被告人遠藤の錯誤に基づくものであつて、逋脱の意思がなかつたということは到底認められず、この点の主張も採用できない。
六 昭和五九年一二月期の発生利息には木下和枝名義の預金利息が含まれているが、被告人遠藤は、預金口座の存在を知らずに申告したものであつて、同金額八八四三円は逋脱金額から除外されるべきであるとの主張について
前掲証拠によれば、木下和枝名義の預金口座は、遠藤隆久が被告人会社のものとして、代金回収のために開設されたものであること、インディア・アイボリーから取立てた代金を管理していたものであることなどの事実が認められる。
右事実によれば、同預金口座の収支は被告人会社のものとすべきであり、仮に被告人遠藤が存在を知らなかつたとしても、単なる情状として考慮すべきものではあつても、被告人遠藤の刑事責任までも否定すべき事情とはならず、この点の主張も採用できない。
(法令の適用)
被告人会社の判示各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人遠藤の判示各所為はいずれも同法一五九条一項に該当するところ、被告人会社については情状によりいずれも同法一五九条二項を適用し、被告人遠藤については各所定刑中懲役刑を選択し、以上はそれぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合計額の範囲内で、被告人会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人遠藤については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人遠藤を懲役一年にそれぞれ処し、被告人遠藤に対し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人らに連帯して負担させることとする。
(量刑の理由)
本件犯行は、所得に対する逋脱の割合も高く、その期間も多年度に亘り、逋脱金額も決して少ないものではない。悪質な犯行であるといわなければならない。しかし、本件以後は反省して税務申告を訂正し、本件分を含めて全額を完納していること、以後の年度分については正しく申告し、納税していること、本件を契機として再びこのような行為をくり返さないことを誓約していること、被告人遠藤には交通違反を除き前科前歴はないことなど諸般の事情を総合考慮し、主文掲記の刑を量定し、被告人遠藤に対しては今回に限りその懲役刑の執行を猶予することとした。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 三浦力 裁判官 日下部克通 裁判長裁判官古口満は転補のため署名押印することができない。裁判官 三浦力)